(T09) 夏目漱石『こころ』を読む

今西 順吉(いまにし じゅんきち)
北海道大学・国際仏教学大学院大学名誉教授

『こころ』は日本人なら誰もが知っていますが、この作品に対する解釈・評価は実に様々で、同一の作品に対する解釈・評価とは信じられないほどです。その原因は、深く共感して読み進むうちに、いつしか読者は自分の「内なる観念」を作品の中に読み込んでしまうことにあります。こうして『こころ』は読者の「私の『こころ』」になってしまうのです。しかし言うまでもなく『こころ』は漱石の作品です。その根幹には漱石の思想があります。思想を文学的構想力によって表現したものが漱石作品です。漱石の思想を把握しなければ『こころ』を理解することはできません。テキストに即して詳細に検討します。